越前市市中央図書館では、私の父で書家の故土田帆山が手がけた作品や、江戸時代から明治・大正時代に使われた書の教科書などを集めた資料展「書の世界」が、開かれています。 12月28日まで。
越前市は、NHK大河ドラマ「光る君へ」の中で、紫式部が物語の執筆に用いた越前和紙の産地です。吉高由里子さん演じる式部は、「越前には美しい紙があります。わたしもいつか、あんな美しい紙に歌や物語を書いてみたい。」なんとも、ありがたいセリフです。そして、式部は、ドラマの中で、「越前和紙」に源氏物語を書き始めました。
手すきの越前和紙は、本物が持つ質感の違いを感じます。私の父(土田帆山)は、この和紙を重用していました。
来年のNHK大河ドラマ「べらぼう」の題字を揮ごうしたのは、本市出身の石川九楊さんです。越前市は、多くの書家を輩出し、活躍されています。
「書は人なり」ともいいます。書いた人の性格と書かれた文字は、関係がうかがえます。書には、書き手の気遣いやその人のセンスが現れます。手書きの文字は暖かいとも言われます。書の線にはいろいろなものが融け込んでいます。政治、思想、宗教、文学など、様々な人の営みが垣間見れるのかもしれません。
日本は中国から伝わる漢字を使いこなしてきました。特に平安時代です。日本の書の美意識が伝わります。源氏物語 朧月夜の書きぶりについて、「乱れかき給える御手、いと、をかしげなり」との表現が登場します。「整然と書かれているよりも乱れている方が見事だ」と言っているのです。光源氏自身も書を巧みにかいています。源氏物語には、書についての描写が多く、書道小説の趣すらあります。
日本語は、漢字、平仮名、片仮名という多種の言語形態を持ちます。この特有の言語文化を継承してきたのは、毛筆の文化であり、書道です。「日本人の美意識」、「不均整の価値」、「空白の間」を大切にしています。
「文字」は、意思伝達の手段として使われ、西洋ではその領域に留まっています。しかし、東洋では、文字の造形にこだわり、いかに美しく書き表すか、という点を追求しています。「文字」はただの「意思伝達手段」の領域を超え、芸術としての発展を遂げました。
越前市では、この書道文化が根付いています。「越前市を書道のまちに」と、半世紀以上の活動がされてきています。
山田市長は、ユネスコの無形文化遺産(右記)を機に、「書」「和紙」に焦点を当て、本市の伝統文化や歴史的な価値を国内外に発信していく旨、議会で表明しました。
「書道」文化が ユネスコ無形文化遺産登録
文化庁は、「和紙」に加え、筆や墨などを使う「書道」を、ユネスコの無形文化遺産に提案することを決めました。日本の文化の深みを世界に広く発信していく観点から、最もふさわしいとの判断です。ユネスコの審査は、2年後の2026年11月ごろの見通しです。